NIROインタビュー



株式会社阪急交通社と株式会社RedDotDrone Japanは、NIROが兵庫県からの委託で実施している「令和3年度ドローン先行的利活用事業」に採択され、「ドローン遠隔操作を活用した新たな観光促進事業」に取り組まれています。

今回は、阪急交通社 西日本営業部の藤原課長と丹羽様、そしてRedDotDrone Japanの三浦社長に、今回の取り組みについてお話をお伺いしました。

(株)RedDotDrone Japan 三浦 望 様、(株)阪急交通社 西日本営業部 丹羽 堅太郎 様、藤原 裕司 様

(左から)(株)RedDotDrone Japan 三浦 望 様、(株)阪急交通社 西日本営業部 丹羽 堅太郎 様、藤原 裕司 様




「阪急交通社」×「RedDotDrone Japan」



―― まず始めに、それぞれの事業概要について教えていただけますか。

丹羽氏

阪急(丹羽):阪急交通社は旅行会社として、国内外のパッケージツアーをお客様に提供することをメイン事業としております。私どもが所属している西日本営業部では、主に法人様の団体旅行を取り扱っておりまして、社員旅行やパーティ運営、修学旅行など、様々なお手伝いをさせていただいております。




―― ありがとうございます。RedDotDrone Japan(以下RDD)の三浦さんもお願いします。

三浦氏

RDD(三浦):弊社はドローンに特化したソフトウェアの開発を行っている会社です。スポーツイベントなどで、選手に取り付けたGPSをもとに、ドローンが自動で選手を追いかけて空中撮影を行う技術の開発や、安全、簡単にドローンを操作して撮影するためのドローン制御アプリを開発しております。現在は遠隔操縦に注力しており、ドローンを何千キロも離れたところから操縦する技術を様々な産業に活用するべく取り組んでいます。



―― シンガポールにも会社があるとお聞きしたのですが。

RDD(三浦):はい。弊社はもともと、私と現在シンガポールにいる平川とで立ち上げた会社で、シンガポールに本社を置いています。現在、私は日本法人の代表として国内で活動しております。



―― シンガポールで会社を立ち上げられたのには何か理由があったのでしょうか。

RDD(三浦):以前、私は別の会社に勤めており、シンガポールに現地代表として5年ほど住んでいました。当時のシンガポールではドローンを活用したビジネスが色々と出始めた頃で、私は子どもの頃、父親がよくラジコンで遊んでいたこともあり、ドローンにとても興味があったんです。それで、私もドローンを購入したのですが、ドローンはシンガポールのどこでも飛ばせるわけではなく、ある特定の場所に限られていたので、そこに行ってみると、どうも日本人らしい人がドローンを飛ばしているのを見つけまして。そこで声をかけたのが今のパートナーの平川なんです。それがきっかけとなり、エンジニアの交流会などを経て意気投合し、シンガポールで会社を立ち上げようということになったのです。



―― 平川さんはそれまではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

RDD(三浦):平川はシンガポールで、グルメ情報サービスを提供するスタートアップ企業のエンジニアをしておりました。



―― ということは、お二人とも前職はドローンとは無縁だったのですね。

RDD(三浦):そうなんです。平川は旅行が好きで、旅先でドローンを飛ばすことを趣味にしていました。それでドローンを練習するために来ていたのがあの場所ということなんです。



―― お二人がそこで出会わなければ創業していなかったかもしれないと思うと、何か運命的なものを感じますね。





コロナによる影響



―― さて、昨年よりコロナ禍が続いておりますが、各社どのくらい事業に影響がありましたか?

 阪急(丹羽):業績で言いますと、もう右肩下がりどころではなく、ストンと底に落ちたような感じで、ほとんど旅行のご予約が無い状況にまで落ち込みました。Go Toトラベル等で一時的にお客様が戻りつつありましたが、再びコロナ感染者が増え始めると、ご予約が途絶え、会社としては非常に厳しい状態が2年間続いています。

阪急交通社 藤原氏、丹羽氏


―― やはり国内旅行でさえも厳しい状況なのでしょうか。

阪急(丹羽):そうですね。国内旅行についても、コロナ対策としてバスの乗車人数を減らしたり、食事会場の座席間隔を空けたりしており、大変苦慮しています。また社員旅行などは企業様の社会に対するイメージにも関わることなので、なかなかお申し込みもなく、取り扱いは激減している状況です。



―― RDDさんはどのような影響がありましたか?

RDD(三浦):弊社はソフトウェア開発会社なので、あまり影響がないような印象をもたれるのですが、我々はスポーツに関連したソフトウェア開発がメイン事業なので、スポーツ大会が軒並み中止や延期となり、我々の技術力をアピールする場面が激減してしまいました。例えば毎年参加させていただいているウィンドサーフィンのワールドカップや、長野県白馬村で開催されるスキー・スノーボードのフリーライドワールドツアーなどは、我々の技術を世界に向けてアピールできる良い機会だったのですが、それがなくなってしまい、本当にただ地道にソフトウェアを開発する仕事のみになってしまいました。





コロナ禍での新たな挑戦



―― 両社ともにコロナ禍で打撃を受けている中、新たにドローンを活用した観光業に取り組もうと思われたのには何かきっかけがあったのですか?

阪急(丹羽):コロナ前から藤原が中心となり、ドローンを活用して何か新たな事業ができないかと模索しておりまして、ドローン会社さんともコンタクトを取ったりしていました。そのような中、コロナ禍となり、企業様を相手とした事業はなかなか難しいので、何か自治体様のお手伝いができないかと思い、公募案件サイトを見ていたところ、今回の「ドローン先行的利活用事業」が目に入ったんです。早速、藤原に相談したところ、面白そうだから何かやろうということになったのですが、いざやろうとなると、どういう切り口で入ったらよいかさっぱりわからず、とりあえず窓口であったNIROさんに相談してみようということになったんです。



―― コロナ前からドローンに目を付けていたというのはすごいですね。

RedDotDrone 会社案内

阪急(藤原):バスで現地まで行って観光するという旅行だけでなく、何か新しい形の旅行を提案していきたいという思いがあったんです。ドローンを活用したツアーや、サイクリングで観光地を巡るツアーなど、何か新しいことができないかなぁと。ドローンに関しては、それまで遠隔操作の技術があることなど全く知らなかったので、ドローンを持っている人が観光地に行ってドローンを飛ばすツアーができれば面白いかなぁというぐらいのイメージでした。



―― RDDさんとはどこでつながったのでしょうか。

RDD(三浦):実は弊社も同じタイミングでNIROさんに、今回の公募案件についてご相談していたんです。ドローンの遠隔操作技術を使って観光関連の事業を立ち上げたいと考えているので、一緒にやってくれそうな会社さんをご存知ないかと。しかし、その時はNIROさんもあてがなく、「また探しておきます」ということで終わったんです。ところが翌日NIROさんから着信があり、電話に出てみると、「今朝、阪急交通社さんから、ドローンを使った観光を考えているが一緒にやってくれそうな事業者をご存知ないかと相談がありました!」と。「こんな偶然はない」と、NIROの担当者さんが次の日には2社の顔合わせをしてくださり、とんとん拍子に話が進んでいきました。



―― まるで奇跡のようなタイミングですね。

阪急(藤原):いやぁ本当に驚きました。2社が会ってからはすごいスピードで話が前に進みましたよ。



―― つながるべくしてつながったという感じですね。





砥峰とのみね高原での実証実験



―― 今回の「ドローン遠隔操作を活用した新たな観光促進事業」ではどのようなことをされているのですか。

阪急(丹羽):今回はススキで有名な兵庫県神河町の砥峰高原という場所でドローンを飛ばすのですが、お客様には現地ではなく、神戸市内の会議室にお越しいただき、そこからドローンを遠隔操縦してもらい、ドローンの視点で景色を楽しんでいただくという企画を実施しています。操縦体験だけでなく、ドローンについての基礎知識や兵庫県神河町の観光案内も含めた1時間ほどの講座も行っています。



旅コト塾
旅コト塾

―― 実際に体験されたお客様の反応はどうでしたか?

阪急(丹羽):前回参加いただいた方の年齢層は50代~80代でしたが、最初はドローンの操作ができるか不安に思われていた方でも、1分ほどお教えすれば自由に行きたい方向に行ったり、カメラのズームや角度を変えたりできるようになり、とても楽しんでおられました。「思っていたよりも操作が簡単だった」「鳥になったように上空から景色が見られて楽しかった」などのお声をいただきました。


―― 楽しんでいただけてよかったですね。今回の実証実験で丹羽さんは何か気付きなどはありましたか?

阪急(丹羽):はい。お客様はその場で初めてドローンのコントローラーを触る方がほとんどのため、遠隔操作で景色を楽しんでいるというよりかは、操縦することに意識が集中していましたので、今度からは事前に操作方法を書いた紙をお配りして予習していただいたり、どういうところを飛ばしたらよいかをアドバイスするなど、もう少しこちらから先導していくことで、より楽しんでいただけるのではないかと思います。



―― 三浦さんはいかがでしたか?

RDD(三浦):砥峰高原はススキがとてもきれいな場所で、今後、「ススキを近くで見たい」というニーズも出てくると思われますので、安全を担保しながら低空飛行できるように工夫をしていきたいと思います。また、丹羽さんからもお話がありましたが、操縦する方は操縦に必死で、こちらとしては、きれいなススキの上を飛んでいただきたいのに、全く別の方向を飛んでいるという現状があったので、何らかのガイドや技術側でのサポートをすることで、本当に見ていただきたい景色を楽しんでいただけると思います。



―― 今後ますます簡単に、ドローンを操縦しながら景色を楽しむことができるのですね。 私も興味が湧いてきました。次の企画が楽しみです!

旅コト塾




観光地に興味を持ってもらいたい



―― 阪急交通社さんは70年以上の歴史ある会社ですが、今回のようなドローンを活用した観光という新しい取り組みに対して、社内から反対の意見などはなかったのですか?

阪急(藤原):特になかったですよ。うちの会社は自由なところがあり、営業先も事業内容も、基本的には営業マンがやりたいようにできるんです。もちろん採算性があるかどうかは検証しなければなりませんが。



―― 新しいものをどんどん受け入れていくような社風なんですね。

阪急(丹羽):そうですね、入社して配属後、すぐに1人で自由にやってこいという感じでしたので、ある程度なんでも挑戦できる土壌はあると思います。

阪急(藤原):会社の規模的にも、ちょうどいいサイズなんです。すごく大手というわけでも、中小というわけでもないので自由に動きやすいところはありますね。



―― そういった自由な社風が今回の事業につながったということですね。ところで、今回のようなドローンの遠隔操作で観光ができるようになると、実際に現地に旅行へ行こうという人が減る心配はないのでしょうか。

阪急(丹羽):我々としては何よりもまず、旅行や観光地に興味を持ってもらいたいという思いが強くあります。ドローンの遠隔操作で観光地に興味を持ってもらい、そこから実際に現地に足を運んでいただけるような仕組み・仕掛けを作っていきたいと考えております。それこそ今まであまり注目されていなかった観光地でも、上空からドローンの目線で見てみることで新たな魅力に気付かされる場所が世界にはまだまだ眠っていると思いますので、そのような観光地の魅力を伝えるきっかけを、ドローンを活用して提供していきたいです。

ドローン


―― なるほど、上空からの景色と地上からの景色との合わせ技で魅力を伝えていくということですね。遺跡など、上空から見たいものってたくさんありますよね。

阪急(丹羽):そうですね、遺跡などは新たな魅力を伝えられると思います。





共通するのは「人」の存在



―― 今回、RDDさんと実証実験をされて、事業化に向けての新たな可能性などの気付きはありませんでしたか?

阪急交通社 丹羽氏

阪急(丹羽):今回三浦さんと一緒にお仕事をして気付いたのは、例えば足に障害があり、気軽に旅行に行けない方や、高齢で体力に不安があるため、大好きな旅行をあきらめざるを得ないという方向けに、ドローンの遠隔操作による旅行体験を提供できればとても有益なのではないかということです。今でもインターネットで様々な観光地の動画を見ることはできますが、やっぱりそれは録画であって、今現在の映像ではないんですよね。ドローンの遠隔操作技術を使うことによって、今この瞬間の観光地を、そしてご自身の見たい場所を見ていただくことができるので、旅行をあきらめていた方にも新しい旅行の楽しみ方をご提供できるのではないかと思っています。


 RDD(三浦):私も同じことを思っておりまして、例えば高齢者の方が体調を崩されて、お孫さん達と一緒に旅行に行けなくなったときに、お孫さんたちは現地にいて、おじいちゃんおばあちゃんはドローンの遠隔操作で自宅や病院から旅行を体験できれば、気持ちがとても前向きになると思うんです。「自分も今度は一緒に行けるように頑張ろう」とか「みんなで写真を撮りたいから頑張ろう」と言ったように、前向きに生きるきっかけを提供できると思うので、そういったところに我々の技術が関わることができれば非常にありがたいと思っております。



―― 両社とも常に「人」の存在を第一に考えてお仕事をされているということが強く伝わってきました。ドローンを使った観光と聞くと、技術的な面が注目されがちですが、その根本には、「人」に対して何かをしてあげたいという、両社の暖かい思いがあるのですね。

RDD 三浦氏

RDD(三浦):弊社は、技術で人の能力を拡張したいというビジョンがあり、「やっぱり人間がすばらしい」という考え方を基本としています。どのようにしたらその人のやりたいことをサポートできるか、能力を拡張できるかという発想でものを作ることを大切にしています。ドローンの遠隔操作で言えば、操縦者が周りの状況を見ながら行う判断能力は、技術ではなかなか追い越せないので、そこは尊重しつつ、その他の部分を技術でサポートできないかという発想から始まりました。ドローンパイロットは寒い所や暑い所、危険な所など、過酷な環境で飛ばさないといけないことが多いので、それであれば遠隔操縦ができればいいよねという感じで。



―― 人の能力を拡張することをビジョンにされているという意味では、ドローンに限らず様々な分野への展開も視野に入れておられるのでしょうか。

RDD(三浦):そうですね、我々はスタートアップ企業であり、ベンチャーキャピタルやファンドから支援していただいているため、スケールアップしていかないとないといけないんです。この小さなビジネスで終わっていては誰も許してくれないので、そういう意味ではテーマは非常に壮大です。



―― 今後のご活躍を楽しみにしております。最後に、このインタビューの定番の質問なのですが、日々ご多忙な皆さまの息抜きの方法や休日の過ごし方について教えてください。

阪急(丹羽):私は子どもがまだ小さいのですが、普段家に帰ったときにはもう寝てしまっているので、できる限り休日は子どもといっしょに遊んでいます。たまに妻に代わってご飯を作ったり、アンパンマンミュージアムに連れて行ったりと、子どもに喜んでもらえるように頑張っています。それが今一番楽しいですね。



―― とてもいいお父さんですね。きっとお子さんも喜んでいらっしゃると思います。
   藤原さんはいかがですか?

阪急(藤原):私はもう子どもが大きくなったので、休日はゆっくりしています。あと、ランニングが趣味なのですが、しばらくさぼっていたら健康診断の数値が悪くなってしまって…。これではいけないと思い2か月前からランニングを再開しました。



―― 適度な運動は大事ですね。私も肝に銘じておきます。
   三浦さんは休日は何をされているのですか?

RDD(三浦):ちょっと引かれてしまうかもしれないのですが、スタートアップをやると決めてから休日は一切ないんです。



―― そうなんですか!?ストレスはたまらないですか?

インタビュー風景

RDD(三浦):バランスをとれるのが特技だと思っておりまして、仕事にもいろいろあるので、ストレスを感じる部分があれば、別の何かでフォローするといった形でコントロールしているんだと思います。もう馬車馬のように生きるのが自分の人生かなと思っています(笑)。



―― すごいですね。凡人にはまねできないです(笑)。
  今後も実証実験は続くと思いますが、皆様のますますのご活躍を期待しております。
  本日はどうもありがとうございました。

阪急(藤原、丹羽)、RDD(三浦):ありがとうございました。

集合写真