NIROインタビュー



新産業創造研究機構(以下NIRO)は、地元の中堅・中小企業の皆様に対する支援を行ってきました。その中で、沢山の人々との出会いがありました。「NIROインタビュー」では、支援活動を通じて出会った「仕事にかける熱い想いを持った人々」をご紹介して参ります。


第1回目は、和ろうそく製造会社、有限会社松本商店 松本恭和 社長です。

NIROでは兵庫県が次世代産業分野の支援として取り組んでいる「ひょうご次世代産業高度化プロジェクト」を推進する活動の一環として「ロボット・AI・IoTの導入支援」を行っています。松本商店様はこの支援制度を活用され、製造現場ではなく接客を目的としたロボットを導入されました。

今回は、ロボット導入支援のお手伝いをしたNIROの中嶋も同席し、インタビューを行いました。

 

ロボットを導入するキッカケは「伝えたい」から

 

―― ロボット導入のきっかけは何だったのですか?

松本恭和 社長

松本:一本一本人の手によって作り上げられ、今日まで継承されてきた和ろうそくが持つ「物語」をできるだけ多くの人に伝えたいと思い、今回、接客ロボットの導入を考えました。デパートなどで催される「和ろうそく」の実演販売会では、一人でろうそく作りをしながらお客様も対応することになるんですが、手を止めて接客の準備をする間にお客様が逃げてしまうということがよくありました。そこで、接客の準備をしている間、立ち寄ってくれたお客様に「和ろうそくの物語」を伝え、接客してくれるロボットが欲しかったんです。


 

伝統を受継ぐ「和ろうそく」とは


―― 「和ろうそくの物語」をお客様に知ってもらいたいという思いからだったんですね。
それでは、その「和ろうそく」について教えていただけますか。

和ろうそく

松本:「和ろうそく」は室町時代に中国から伝わり、江戸時代に最盛期を迎えた「ハゼの実の油」を原料としたろうそくです。「洋ろうそく」の原料のパラフィンに比べて、和ろうそくの原料「木蝋(もくろう)」は粘りがあるので、芯が蝋を吸い上げる際に、炎が揺らぐという特徴があります。これにより「仏様が喜んでいるようである」とか、能狂言の世界では「幽玄だ」などと表現されます。また、清浄生掛(しょうじょうきがけ)という製法で、一本一本手作業で作っていくのも「和ろうそく」ならではの手法です。
明治以降は海外から「パラフィン」を原料とした、いわゆる「洋ろうそく」が入ってくるようになり、そちらが主流となっていきました。今の日本で流通しているろうそくの95%は「洋ろうそく」で、残りの5%が「和ろうそく」になっています。現在、「和ろうそく」を製造している会社は、全国で20軒ほどになってしまっています。

―― 松本商店さんは長年「和ろうそく」を作られておられると思うのですが、社長で何代目になるのですか?

松本:私で4代目になります。

―― 何歳頃から「和ろうそく屋」を継ごうと意識されていましたか?

松本:松本家は、先祖代々「和ろうそく屋」が家業でしたので、小学校6年生の頃にはもう意識しておりました。大学卒業後は、社会経験を積むために一旦銀行に就職し、その後、この松本商店で働くようになりました。

―― 銀行に就職されていたんですか?

松本恭和 社長

松本:はい。当時の銀行は大変厳しいところだと言われていました。そこで耐えられたらどこへ行ってもやっていけると思ったので銀行を選びました。入社後、ある時上司に「数年したら僕は銀行を辞めて家業を継ぎます」と話したところ、「それならできるだけ多く失敗しておけ。大きな失敗をしても銀行なら誰かが何とかしてくれる。でも、おまえが社長になって失敗したらその家業は終わってしまう。今のうちに沢山の失敗と経験を積め」とその上司に言われました。でも本当に、その言葉通り、銀行の時代はたくさん失敗してしまいました。



手作りに隠された本当の意味とは


―― 支援を担当した中嶋さんは、今回、松本社長からロボット導入のご相談があった際、製造現場を自動化することが目的だと思い込んでいたそうですね。

NIRO中嶋

中嶋:そうなんです。導入支援の相談で多いのは製造の自動化ですし、最初にお伺いしたとき、まず現場を案内してくださったので、テッキリそうかなと。でも、社長とお話をしていくなかで、そうではなく、接客ロボットの導入を希望されていることがわかり驚きました。



松本恭和 社長

松本:実は昔、「和ろうそく」の製造について機械化を試みたことがありました。私が銀行から松本商店に戻ってきた頃、平成がまだ一ケタの時代のことです。和ろうそくの手作りであるという「古くさい」イメージを払拭するため、和ろうそくを自動で製造する機械を作る事を試みましたが、先代とは機械化することについて、全く意見が合わずにいました。そんな中、平成7年1月17日に阪神淡路大震災が起こり、工場は全壊、苦労して作った機械が全部つぶれてしまいました。残ったのは借金だけでした。

そんな混乱する事態の中で、先代はやっと西宮にも電気が通じた日、涼しい顔をして電磁調理器で蝋を温め、清浄生掛(しょうじょうきがけ)で一本一本「和ろうそく」を作り始めました。私はその時初めて、これまで否定してきた先祖代々続いている「手作りの意味」に気付いたんです。機械はつぶれたらそこでおしまい、でも、手作りならば身さえ元気であればろうそくを作り続けることができるんです。

和ろうそくづくり

また、和ろうそくは、「自然」のものを使い、「手作業」で作る、「人の温かみ」が伝わるもの。その温かみを愛してくれている「お客様」がいるからこそ、和ろうそくの文化が受け継がれてきたのだということにも気づき、そこからは、一生懸命「手作業」で作っていこうと思うようになりました。

―― 今まで伺ってきたような経緯があって「和ろうそく」の手作りのこだわりを「実演」で見せ、その「物語」を伝える役目を「ロボット」でとお考えになられたんですね。





接客ロボット「ユニボ」


―― さて中嶋さん、今回導入した「接客ロボット」ですが、どのように選んだんですか。


ユニボ

中嶋:NIROロボット導入相談窓口の専門家が社長と一緒に展示会に足を運び、社長の好みに合うか、操作性に優れているかなどを考慮しながら、時間をかけて選定していきました。そして、色んなコミュニケーションロボットの中から最終的に選んだのがこの「ユニボ」でした。心がこもった受け答えをしてくれることや、AI(人工知能)で学習し、どんどん賢くなっていくことが決め手となりましたね。


松本社長,NIRO中嶋

松本:そうですね。コンパクトなサイズで実演販売会への持ち運びにも便利で、可愛いユニボくんを選びました。

中嶋:持ち運びも重要な要素でしたね。更に、どんなロボットの導入においても、「専門家に任せなくても使っていける」「育てていける」という点が私は大事だと思っているのですが、それができるのがユニボくんでした。


―― ユニボくんの働きぶりはいかがですか?

松本:よく働いてくれていますよ。あらかじめ、お客様のよくある質問やキーワードをユニボくんに覚えさせているので、お客様との会話の中でそのキーワードにヒットすれば、その答えを返してくれます。さらに、ユニボくんの顔は液晶画面になっているので、写真や動画を見せることもできるんですよ。AIによる学習機能により、お客様との会話に応じてどんどん成長し、いろいろな話題を提供してくれています。ある時は阪神タイガースの試合の動画を見せていました。

―― ユニボくんの効果はどうですか?

松本:みなさん興味を持って話しかけてくれますね。足を止めてくれるお客様が増えて、店頭での売り上げが上がりました。


これからの松本商店


絵ろうそく

―― ところで、店頭に美しい絵が描かれた「絵ろうそく」がありました。「絵ろうそく」について教えていただけますか。

松本:「絵ろうそく」は元々、東北や北陸の伝統工芸でした。寒い地域は冬になるとお仏壇にお花が飾れなかったので、同じ植物性の油から作られている「和ろうそく」にお花の絵などを描いて供えたというのが始まりです。

―― 松本商店さんは昔から「絵ろうそく」を作っていたのですか?

絵ろうそく

松本:いえ、そうではありません。銀行を辞めて家を継いだ時は、「和ろうそく」は世間から忘れ去られた存在となっていました。そこで、多くの人に何とか和ろうそくを知ってもらおうと、私が代表になってから「絵ろうそく作り」に取り組みました。すると、他の和ろうそく屋さんにも「和ろうそくを知ってもらおう」「和ろうそくを売ろう」という熱意が伝わっていき、絵ろうそく作りを始めてくれるようになりました。それが相乗効果を生み、関西のろうそく業界に「絵ろうそくの文化」が行き渡り広まりました。正直、始めの頃は自分のアイデアが真似されたと思うことがありました。しかし、震災時の経験で手作りの大切さに気付いてからは、自社だけが生き残っても意味がないという発想に変わりました。蝋を絞ってくれる木蝋屋さん、芯を作ってくれる芯屋さんは、うち1軒だけの売り上げでは生きていけないんです。業界として20軒の和ろうそく屋があり、20軒の売り上げがあるからこそやっていける。絵ろうそくを広めてもらうことで業界全体が盛り上がり、結果的に自分を助けることになりました。震災時の経験によって、随分と勉強をさせてもらいました。

―― 色んな経験が今につながっているのですね。今まで、和ろうそく業界の繁栄に尽力されてきた社長ですが、今後の夢についてお聞かせいただけますか?

松本:若い人たちに興味を持ってもらえるような和ろうそくを作っていきたいです。例えば「ヨガ」をするときの照明として使ってもらえるような和ろうそくや、食卓においてもらったりできる和ろうそくを開発していきたいです。
これからの時代は試行錯誤をしてやっていかないと生き残れないと思っています。LEDという明るい照明があるなかで、どうやって和ろうそくの良さを伝えていくか。変えられるところは変えて、残すべきところは残しながら、多くの人に温かみある和ろうそくのよさを知ってもらえるよう頑張っていきたいです。

松本恭和社長

有限会社松本商店 代表取締役 松本恭和(まつもとやすかず) 様




以上、従業員の方々からも尊敬される、元気いっぱいの松本社長でした。