NIROインタビュー


本日は、兵庫県加東市に本社工場を構える「アスカカンパニー株式会社」CTO(最高技術責任者)の長沼恒雄さんと社員の杉野文美さんにお話を伺います。長沼さんは、父・長沼誠一郎さんが1968年に設立した「京都化成工業株式会社」(2002年に「アスカカンパニー株式会社」に商号変更)を2005に代表取締役社長として引き継いだ後、2021年からはCTOとして会社を牽引されています。
アスカカンパニーは、プラスチック成形品の製造販売を行う「プラスチック分野」に加えて、プラスチック成形品の製造に欠かせない金型の製作・メンテナンス・クリーニングを行う「メンテナンス分野」、プラスチック成形に関わるものづくり技術の製品化・サービス化を行う「機器システム分野」の三本柱に加えて、IoT・AIの活用を通じて蓄積したノウハウを提供する「セミナー分野」に取り組んでいます。
品質管理においては、東北大学における長沼CTOの研究で培った、IoTやデータマイニングなど最先端の情報処理技術による、成形品の良否判断や成形装置の故障予測など、高度なものづくり技術をお持ちです。

アスカカンパニー株式会社
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アスカカンパニー

アスカカンパニー株式会社
本社・本社工場

右:代表取締役 兼 CTO 長沼恒雄 様
左:営業本部 杉野文美 様

多種多様な製品を送り出す、
高度な品質管理技術

――はじめに、プラスチック成形品とはどんなものなのか、教えていただけますか。

加熱して柔らかくなった樹脂を密閉した金型へ高圧充填した後、冷却・硬化させて製造します。当社では、食品、トイレタリー、文房具、さらにはライフサイエンスで使われるプラスチック製品を製造しています。

成形品

――なるほど。プリンの容器、歯磨きチューブ、薬の容器...どれも私達の日常生活で馴染み深いものばかりですね。どれくらいの種類の製品を製造されているのですか?

色の違いも含めたら、ざっと千種類くらいでしょうか。

――そんなに沢山あるのですか。ご紹介いただいた製品から考えると、単純に種類が多いだけではなく生産量も膨大でしょうね。多品種かつ大量生産となると、品質管理もかなり大変でしょうね。

長年培ったノウハウと評価技術を駆使するとともに、整った生産体制・生産環境の下で、高い品質の製品を提供しています。特に品質管理の面では、あってはならない致命不良を完璧に排除するために、製品の画像処理による検査などにより、全数品質保証するしくみを整えています。

――画像処理による検査について教えて下さいますか。

当社で最も発生頻度が高い外観不良品は、焼けた樹脂、潤滑剤、金属粉などの異物混入によるものなのですが、従来は、検査員による抜取り目視検査が主流でした。しかし、検査員の主観で結果が左右される事、検査員の心理的負荷の存在、人件費などのコスト発生、などの課題があるため、カメラを使った画像検査技術を独自に開発し現場に導入していました。

――東北大学との関係はそこから始まるのですか?

たまたま、当社の東北工場(宮城県加美郡:1978竣工)に出入りされていた商社の方が、当社の画像検査技術の事を知り、東北大学で脳科学の分野で使う光刺激装置の話を聞きに行かないかと誘われたのが発端でした。

――光刺激装置とはどんなものですか?

光で活性化する物質を細胞に発現させて、細胞の機能を制御する技術(Optogenetics:光遺伝学)に使う装置です。東北大の八尾寛教授のご指導の下で開発し、その後、「多点独立刺激装置:MiLSS」として製品化しました。2010年のことです。

――その東北大との関係が発端となって、現場のIoT化が始まったのですね。

長沼氏

当社では、新しい射出成形機でも型締め装置の故障が原因で、長期間、生産が止まってしまう事がありました。このような故障が発生してしまうと、お客様だけではなくサプライチェーン全体へ影響してしまいます。ですから、このような問題が起こらないよう、予め成形機の故障が予測できたら、と考えました。ちょうどIoT(モノのインターネット)という用語が社会でも盛んに聞かれ始めた頃です。当社の工場で稼働している成形機からは、型締め力のデータが常に出力されています。そして、1台の成形機だけでも1日に何千ショットも射出し膨大なデータ(ビッグデータ)が集まりますので、これらのデータから成形機の故障の兆候が読み取れないかと。
そこで、光刺激装置の開発で縁のできた東北大の橋本浩一教授をご紹介いただきました。橋本先生の研究室では主にロボティクスを研究されており、ロボットと当社の成形機との類似点も多かったのです。

――共同研究されたのですか?

違います。私自身が博士課程後期の試験を受けて大学に籍を置き、授業も受けながらの研究でした。幸い、博士課程は研究が主体でしたので、月に一度の東北工場への出張も兼ねて大学に赴き先生の指導を仰ぎました。そして、5年後には学位も取得できました。

――経営者自らが学生として研究するということは、大変な労力だったと思いますが、得られた成果も大きかったようですね。

はい。2018年、2021年に「成形システム、成形装置、検査装置、検査方法およびプログラム」、「異物発生原因推定システム及び異物発生原因推定方法」という重要な特許を取得し、さらに2021年には、プラスチック成形加工学会の技術進歩賞を頂きました。

――素晴らしい成果ですね。

ありがとうございます。もちろん、開発の主目的は安定した製造ではありますが、根っこのところに「従業員に楽に仕事をしてもらいたい」という想いがあるからなんですよ。これは創業者である父の代、1978年から途切れなく行っている当社のQC活動「MK活動」の理念「楽・正・早・安」、すなわち「全ての作業を、より楽に楽しく、より正しく正確に、より早く、より安全・安心に、できるように改善する」に通じます。これは私達アスカカンパニーの文化といっても良いものです。

MK活動... あくまで自分たちのために

――そのMK活動について詳しく教えて下さいますか。

長沼氏

名称の「MK」とは「み(M)んなで活(K)動、み(M)んなで改(K)善」を意味します。この活動を始めてからもう90回以上になりますよ。25くらいのグループに分かれて、原則として管理職以外の全従業員が参加します。リーダーは、年齢や職位には関係なく、若手からベテランまで誰でもなれます。テーマも自由です。製造現場の改善だけではありません。例えば、過去には倉庫の鳩対策などをしたグループもありましたよ。

――QC活動というと、御社に限らず他の製造業種でも広く行われていると思いますが、MK活動の特徴はどのようなものでしょうか?

当社のMK活動は、会社のためではなく、何よりもまず従業員自身のために行ってもらっています。そして、従業員自身が活動を通じて成長することが大事です。アスカカンパニーの経営理念は「人々が成長し社会に貢献できる場の提供」です。MK活動はこれを実現するための具体的なアクションなんです。これらの活動により、単なる現場改善にとどまらず、特許や新たな商品に繋がったものもあります。

より働きやすい職場を目指して

――高い品質の製品を生み出す御社の秘密を伺った気がします。「従業員」を中心とする理念をお持ちのアスカカンパニーですが、女性社員が4割を超えていると伺いました。

はい。女性社員が働きやすい職場にする努力を地道に続けてきた結果だと思います。2006年入社した女性社員の話をご紹介しましょう。大学院を卒業し、当社では開発の仕事をしていただいていたのですが、結婚したことにより滋賀県に引っ越すことになりました。さてどうしたものか、と御本人とも考えた結果が「在宅勤務」です。当時は、新型コロナ・パンデミック後の今と違って、「仕事は会社に出勤して行う」というのが当然でした。でも、「育児をしながら働き続ける姿を後輩たちに見せて下さい」と私からお願いしたんです。それからもう17年になりますね。今も、朝礼には毎日リモート出席していただいています。このような自由な働き方は、今では、勤務時間を従業員自身で設定できる「短時間勤務制度」や「育児休業制度」などに制度化して運用しています。この「短時間勤務制度」の取得率は正社員の10%、さらに「育児休業制度」に至っては100%の取得率になっています。

――なるほど、単なる制度制定だけではなく、制度を利用する従業員の皆さんが気兼ねなく利用できる風通しの良い職場だということですね。それでは、実際に従業員として働いておられる杉野さんに伺います。杉野さんは入社して何年になりますか?今はどんな仕事をされているのですか?

8年になります。今は、プロダクトマネージメントグループのリーダーとして働いています。

長沼氏、杉野氏

――就職先としてアスカカンパニーを選ばれた理由は?

就職活動している時は、当社は加東市の会社ということで、マイカー通勤になりそうでしたから、諦めようかなと思ったこともありました。しかし、会社の雰囲気がとても良いなぁということは面接で感じていましたし、大学で化学を学んだこともあること、さらにアスカカンパニーの製品が自分自身の身近に沢山あって、こういうものを作るのは面白そうだなと思い、選びました。

――実際に入社されて如何でしたか?

杉野氏

就職する前に感じていた通りの雰囲気が良く働きやすい職場でした。この感想は私だけでなく、同僚の皆さんも同じように言っていますよ。働きやすい会社ということでは、アスカカンパニーは沢山の認定を頂いていますのでご紹介します。

健康経営優良法人:経済産業省
地域未来牽引企業:経済産業省
ユースエール:厚生労働省

[女性の活躍]
えるぼし:厚生労働省
ひょうご女性の活躍企業:兵庫県
ミモザ企業(ひょうご・こうべ女性活躍推進企業):兵庫県、神戸市
女性のチカラを活かす企業:宮城県

[WLB:ワークライフバランス]
くるみん(プラチナ):厚生労働省
ひょうご仕事と生活のバランス企業:兵庫県
みやぎ働き方改革実践企業:宮城県

――これは素晴らしいですね!アスカカンパニーが、高度な技術で優れた品質の製品を世に送り出しているバックグラウンドとして、良い職場づくりを日々推進されていることがよく分かりました。

業界や地域全体の成長を手助け

――さて、長沼さんは2021年に社長を退かれ、現在はCTOとしてアスカカンパニーを技術面で牽引されていますが、現在はどのようなことに力を注いでおられますか?

製造技術面も含めて、従業員の皆さんが働きやすい職場の実現ということを目標にして、今まで進めてきましたが、ひと区切りできたと思っています。これからは、経営については弟(代表取締役社長・長沼誠さん)に任せて、アスカカンパニーというひとつの企業だけではなく、業界や地域全体の成長を手助けしたいと考えました。これは、当社から業界や地域社会への恩返しでもあります。

――具体的な取り組みをご紹介していただけますか。

技術に関しては、当社の技術を学んで頂くセミナーを開催しています。今までも当社工場へ多くのお客様にお越しいただき、製造現場をご覧いただいてきましたが、その際に「カメラによる外観検査の手法」や「IoTやAIの取り組み」についてもっと詳しく知りたいというお声をいただいていました。これに応えるため、工場見学を組み込んだ実践セミナーを始めたんです。受講者は、経営者の皆様から実際に生産を担当されている方々など幅広く、また、国外からのお客様にも受講されるなど大変好評いただいています。

長沼氏

――同業者でも受講できるのですか?

はい。当社にとってはノウハウを出すことになるのですが、「良いものなのでどんどん使って下さい」ということです。そうすると色々な有益なネットワークができてきます。同じ業界の中で、共に苦労して頑張ってきた企業の皆さんと私達とでは、もっている価値観が近いからだと思います。

――業界自体が成長したら、結局は自分達に返ってくるというお考えなんですね。

はい。創業者である父が「我々は業界のリーダーにならないといけない」と良く言っていました。業界のリーダーとは何か?と私なりに考えた結論が「業界全体を成長させたい」という想いですね。

――地域としての活動はどのようなものですか?

長沼氏

人の成長という観点では、地元の西脇工業高校でのPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御実習を当社がさせていただいています。そして講師は同校出身の従業員なんですよ。PLCは工場のFA化には欠かせない機器なので、将来、学生の皆さんが電気技術者としてとして働く際には、重要なスキルとなる筈です。 また、加東市の商工会副会長として、地元企業に対するビッグデータ利用技術の啓蒙活動、さらにはデータサイエンス企業の加東市への誘致などにも取り組んでいきたいと考えています。 日常業務に追われている中堅・中小企業の皆さんは、ビッグデータ利用といっても、なかなか敷居が高いんですよ、「ビッグデータなんか使わなくても別に困っていないし」といった感じで。しかし、私からみたら各企業が持っている種々のデータは宝の山のようなものですから、それらのデータをお借りして、そこから得られそうなものを具体的にお見せして、それがどんなに有益なものなのかを実感していいただこうと思っています。また、地元にお住まいで、画像処理技術がご専門の兵庫県立大の日浦慎作教授による社内相談会も開催しており、先生から具体的なアドバイスを直接もらうことができます。

――正に、アスカカンパニーの経営理念「人々が成長し社会に貢献できる場の提供」を実行されている訳ですね!素晴らしいです。
では、最後にお聞きしたいのですが、「アスカカンパニー」という社名はどのようにして付けられたのですか?

社内公募で選ばれた名前なんですよ。先代社長の父から「自分の想いは達した。あとはお前に任せる。社名も好きなもの変えたらどうか?」と言われたものですから。響きも良いでしょう?

――社名を公募とは...常に従業員を中心に考える御社の風通しの良さがわかるエピソードですね。引き続きNIROは、従業員全員の成長を通じて社会へ貢献するアスカカンパニーを応援します。本日は、どうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

長沼氏