NIROインタビュー



坊勢島

姫路市本土から南西約18キロメートルの瀬戸内海播磨灘に位置する家島諸島のひとつ、坊勢島。住民の約半数が水産業に従事している漁業の島で、兵庫県下で1、2位を争うほどの漁獲高を誇っています。

現在、兵庫県からの委託でNIROが実施している「ドローン先行的利活用事業」において、坊勢漁業協同組合様にご協力をいただき、水中ドローンによる人工漁礁(※)調査の実証試験を行っています。今回は当事業にご協力いただいている坊勢漁協の岡田組合長に、水中ドローンに寄せる期待や坊勢島の魅力についてお伺いしました。
※人工漁礁(ぎょしょう)・・・魚を育て、増やすために海中に設置された、石材等からなる人工物。

古市氏

坊勢漁業協同組合 岡田 武夫(おかだ たけお)様



漁業の島 坊勢ぼうぜ

―― まずは坊勢漁協についてお伺いします。漁協が設立されたのはいつ頃でしょうか。

私がまだ生まれる前の昭和18年に、家島漁業協同組合から独立して坊勢漁業協同組合が設立されました。家島は漁業だけでなく石材採掘なども盛んでしたが、坊勢島では漁業しかなかったため、どんどんと漁民の数が増えていったんです。そして家島よりも漁民が多くなったということで、漁業組合が設立されました。

 

―― その頃から漁業の島として栄えていったのですね。岡田組合長も組合長になる前は漁に出ておられたのですか?

はい。組合長になって今で7年目ですが、それまでは漁に出ていました。来年の6月で任期が終わるので、そこからまた漁に出ようと思っています。

 

―― 近頃は様々な業界で、就業者の高齢化が問題となっていますが、坊勢の漁協はどうですか?

かつては組合員の平均年齢が40代だった頃もありましたが、坊勢も少しずつ高齢化が進んで今は55歳ぐらいです。各家庭に二人の子どもがいたとして、一人でも漁師になってくれたらこういうことにはならないと思うのですが、今の子たちはインターネットなどでいろんな世界を知っているので、「漁師の世界はきつい」「収入が不安定」というイメージがあるみたいです。それで二人とも島から出て行ってしまうこともあるんです。我々から見たら、今は機器の発達などにより漁はものすごく楽になっているんですがね。それと若い子達は便利な都会にあこがれがあって、一旦は島の外に出たいという思いがあるようです。島にはコンビニすらないですからね。

 

―― 高齢化が進んでいるにもかかわらず、坊勢漁協の漁獲高は県下で1・2位を争っているというのはすごいですね。

岡田組合長

本土の人であれば、いよいよ漁師で食べていけないとなったら、畑で農作物を作ったり、他の仕事に就いたりすることができますが、坊勢はそれができないんです。漁業しかないので、何が何でも漁師で食べていかないといけない。ですから漁師達は、無線やレーダーなど、最新の技術についてものすごく勉強していて、どのようにしたら安全に、そして効率的により多くの魚が獲れるか考えながらやっていますよ。それと、坊勢漁協は組合員の漁獲高が総会で公表されるので、「自分はこれだけ獲ったけど人と比べて多いんやろか、少ないんやろか。あの人はあれだけ獲ってるけど自分と何が違うんやろか」とお互いが切磋琢磨して競争するんです。朝4時に出航して夕方5時に帰ってくるという同条件の中で、誰が1番になるか。つまり技術の世界なんです。順位が下の人は上を見て、「あぁ、あの人はこんなことしてるんやな。自分も真似しよう」と、常に後ろから追いかけていくような感じです。これが坊勢漁協の強みなんです。

 

海の中を見たい

―― なるほど。そのように漁師の方達が競い合って魚を獲る習慣があるからこそ、水産資源がなくならないよう、漁協さんとして、人口漁礁などで魚を育て、増やしていく取り組みをされているのですね。

そうなんです。自然界で魚が増えるだけだったらとてもじゃないけど追いつかないと思います。ですから県も市も人工漁礁を作って魚を育てているんです。

 

―― 人工漁礁は県と市が設置しているもの以外にも漁協として設置しているものもあるのですか?

はい。県や市の事業は海底の調査をしっかり行ってから、地盤の固いところに設置するので問題ないのですが、自分たちのものは海底調査を行わずに設置するため、泥の中に埋まってしまうことがあるんです。昭和30年頃からいくつも人工漁礁を設置していますが、泥に埋まって既に無くなっているものもあると思います。

 

―― 今回、兵庫県の事業で、NIRO が JOHNAN(株)に委託をし、県が設置した人工漁礁の水産資源を水中ドローンで調査する実証試験を行っていますが、漁協さんで設置された漁礁なども水中ドローンで観察できるようになったらいいですね。

岡田組合長

そうですね。ドローンにはとても期待をしています。
海の中というのは陸上と異なり、どこにどんな魚がいるかというのを人の目で確認することはなかなか難しいのです。ですから現在どのように魚を獲っているかと言うと、長年に渡る漁の歴史の中で培ってきた知識と勘で、例えば「6月が来たな、もうすぐ鳴門海峡を通ってアジやサバが入ってくるな」といった具合に漁をしているんです。このように漁業の世界ではまだまだ漁師の勘というものが先行しているんですよ。もし水中ドローンに装備したカメラを通して、魚の生態を実際に目で見ることができれば、30年前に設置した漁礁がどうなっているか、最近設置した漁礁がどんな感じかなども確認ができるので、これから大きく漁業の世界が変わっていくと思います。また、漁礁の周りは魚を育てるために禁漁にしているので、漁を我慢してもらっている漁師達に、実際に魚が育っている様子を見てもらい、納得してくれればいいなと思っています。

 

―― やはり海の中が実際に見えるというのは漁業にとって革新的なことなのですね。

はい。現在は、県の設置した漁礁については、実際に人が潜って調査をしていますが、費用がかかるため頻繁には行われていないんですよ。水中カメラがあれば、低コストで、安全に、定期的に調査が行えるので、より詳細な状況がわかるようになると思います。

それから、私たちは「海底耕うん」という、海の底を機械で耕して、ヒラメやカニなど、魚が住みやすい環境を整えているのですが、耕したあと海底がどうなっているのか、目で見ることができないのでわからないんです。もし水中カメラで海底の様子を確認したり、海底の水質を調べることができれば、簡単にその効果を測ることができると思います。

また、海の中には魚だけでなく、沈船などの障害物もたくさんあるのですが、漁をしているとその障害物に網をひっかけてなくしてしまうことがよくあるんです。そういった障害物も水中カメラで予め確認することができれば、被害も大きく減ると思います。

 

―― 人工漁礁の調査以外にも様々な用途で水中ドローンが活躍できそうですね。

そうなんです。
私たちは去年から自然体験ツアーを行っており、島外から来てもらった子どもたちに船の上で魚群探知機の画像を見せてあげるのですけれども、実際の魚が映し出されるわけではないので、面白みがないんですよ。特に低学年の子どもたちはまだ理解ができないんです。もし、水中カメラを使って実際に魚が泳いでいる映像を見せてあげることができれば、子どもたちにも喜んでもらえると思います。

―― 水中ドローンへの期待が膨らみますね。

 

自然体験ツアー

―― 先ほどお話にあった「自然体験ツアー」ですが、何かきっかけがあって始められたのですか?

岡田組合長

今はスーパーに行けば既に調理された魚が並んでいるため、魚の本来の味や魚がどのように泳いでいるかを知らない子ども達がたくさん増えているんです。魚は一匹丸々買ってきて、自分の家でさばいて食べるのが一番おいしいのですが、最近は共働きの家庭が多く、時間がないため、わざわざ魚をさばいて食べるということがなくなってきているんです。また、肉や野菜に比べて魚は嫌厭されがちで、お父さんお母さんがそのような感じだと子どももあまり魚を食べさせてもらえないという状態になってきていて。ですから、魚のおいしさを知っている我々が、もっと魚をアピールしていかなければいけないだろうということで、始めたのが自然体験ツアーなんです。

 

―― 魚のことをもっと知ってもらいたいという思いからなのですね。自然体験ツアーではどのようなことをしているのですか?

自然体験ツアー


自然体験ツアー

例えば「ぼうぜ鯖」※の餌やり体験です。畜養場で餌をまくと池の鯉のように鯖がバーっと跳ね上がるんです。その光景に子どもたちはものすごく喜んでくれますよ。それから、底引き網漁業の体験では、網をどのように引いていくか、最終的に網をどのように引き上げていくかを見てもらったり、また、海苔はどのようにして刈っているか、カキはどのようにして殻を割っていくかなど、いろいろと体験してもらっています。

あと、組合にマイナス30~40℃の大きな冷蔵庫があるのですが、そこも見学してもらっています。子どもたちは家庭用の冷蔵庫しか知らないので、中で1メートル四方の大きな氷を目にすると、「こんな大きな氷見たことないわぁ」とすごく驚いてくれるんです。それで、10分間ほど中で冷蔵庫の説明をするのですが、5分もすればだんだん寒くなってきて、「はい、終わり」とドアを開けた瞬間みんな一斉に飛び出していくんです。「うわぁーすごかったぁ」とみんな口々に言っていますよ。都会の子どもたちからすると、どれも初めての体験ばかりなんです。

ぼうぜ鯖



※ぼうぜ鯖・・・瀬戸内海で漁獲した鯖を生け簀の中で畜養したもの。身に良質な脂がのっているのが特徴で、シーズン中はこのぼうぜ鯖を目的にして観光客が集まる。

 


―― とてもおもしろそうですね。私もお話を聞いていて体験してみたくなりました。

ありがとうございます。
今後は、先ほど申し上げた水中ドローンなども活用できるようになれば、本来の魚の生態も水中カメラを通して見せてあげることができると思うんです。水族館などでは、魚をきれいに見せるために、きれいな水で泳ぎ回らせているのですけれども、海の魚は、泥水の中で相手に見つからないようにじーっとしているんですよ。岩場に隠れて目だけ出して、獲物が来たら、自分が他から狙われていないことを確認してから食べるんです。そういった普段見ることができない自然界の魚の姿というものを、水中ドローンの技術を活用して見せてあげられたらいいなと思っています。

 

―― 水中ドローンなど、最新技術が活用できるようになれば、ますます自然体験ツアーも充実したものになりそうですね。

そうですね。
つい先日、水中ドローンの実証実験に私も立ち会わせていただきました。まだいくつか技術的課題は残っているようですが、実際に使えるようになるよう、大いに期待しています。

自然体験ツアー  自然体験ツアー
自然体験ツアー  自然体験ツアー
 

地球環境の変化

―― 近年地球温暖化の影響により、全国的に漁獲量が減ってきているようですが、坊勢でもやはりその影響は感じますか?

漁港

とても感じています。30年前、10年前、現在と比較すると、どんどん漁獲量が落ちてきているんですよ。また魚のサイズもだんだん小さくなってきている。つまり海の中の栄養がなくなってきているんです。かつて、昭和40年代の高度経済成長期はすごかったですよ。魚は安かったですけどものすごく大量に獲れましたからね。それでもそこからどんどん環境が変化して魚が減っていきまして、海の底の魚を獲る「底びき網漁業」なんかは採算が合わないということで、この付近でやっているのはうちの組合だけになってしまったんですよ。底引きや、ちりめん、いかなご漁は壊滅的にダメージを受けていますよ。また、漁獲量の変化以外にも、生態系も変化していて、かつては沖縄の暖かい海にしかいなかった南海域の魚が瀬戸内海に入ってきたりもしていますし、2年前にはクジラも入ってきたんですよ。

 

―― クジラがですか?

はい。全長13mぐらいのクジラが鳴門を超えて4頭も入ってきたんです。子どもたちは「わぁー、あれがクジラかぁ」と喜んでいたのですが、現実はもっと大変で、クジラ4頭が播磨灘で食べる魚の量といったら半端ではないんです。我々が獲る魚が全部食べられてしまうのではないかと、漁師はみんなひやひやしていましたよ。

 

―― それは大変でしたね。やはり地球環境の変化が影響しているのですね。

そうだと思います。
このような感じで海にもいろんな変化が起こっておりまして、漁獲量がどんどん減ってきているのですが、その一方で魚の値段は上がっていかないんですよ。

 

―― 値段が上がらないのには何か理由があるのですか?

貿易の自由化が推進され、海外からどんどん安い魚が入ってきているので、我々の魚もそれに引っ張られてしまうんですよ。「この魚はちょっと高いけどおいしいんやで」と言っても消費者は海外の安い魚に目が行ってしまうため、どうしても我々も値段を下げなくてはいけないんです。国の政策の話なので止むを得ないことなんですけどね。それでも、我々がもっと魚をアピールしようと取り組み始めてから、兵庫県や姫路市もいろんなイベントを企画してくれるようになったんです。カキフェアや坊勢鯖祭り、白鷺鱧祭りなど、年に5回ぐらいやっていますよ。

魚の本

また、普段市場には出回らない、我々漁師以外にはあまり知られていない魚というのもいるのですが、そのようなマイナーな魚や、この辺りで獲れる魚を掲載した「姫路の地魚食彩図鑑」という本を姫路市が作成してくれたんです。魚の写真だけでなく、料理の仕方なども載っていて、我々漁師でもよくできているなぁと感心しているんです。
このように行政も地元の魚のPRにとても力を入れてくれています。

―― 地元の産業を守るためにも、我々消費者が地元の魚に関心を持ち、消費するということが大事ですね。

 

今後の坊勢について

―― 今回、岡田組合長には坊勢について様々なお話をお聞かせいただきましたが、今後、坊勢をこのようにしていきたいという展望をお聞かせください。

魚の本

やっぱり魚をもっと上手にアピールして、売りたいという思いがあります。いきなり魚を市場に持っていって「これおいしんやで」と言ってもダメなんですよ。先ほど申し上げた、自然体験ツアーで島に来てもらって、「この魚はアオリイカというんやで」「魚はこのように包丁を入れてこのように料理するんやで」と船の上で見せてあげることで興味をもってもらうことが大事なんです。体験船で子どもたちにタコを触らせてあげると、吸盤が手に吸い付いときには大はしゃぎしますし、ヒトデを見せてあげると「忍者の手裏剣みたいやなぁ」とすごく喜ぶんですよ。このような感じで、まずは海というものに慣れてもらってから、魚にも興味を持ってもらうということが、今後の坊勢には必要だと感じています。

 

―― 体験を通して海に興味を持ってもらうことが、結果的に魚への関心にもつながっていくのですね。

そのように思います。
あと、我々がもうちょっと整備しなければいけないと考えているものがありまして。
それが『公衆トイレ』なんです。最近は釣りで島に来る人も多く、私が浜で仕事をしていたら「すいません、この辺に公衆トイレはありませんか」とよく尋ねられるんですよ。島に公衆トイレが少ないので、そんなときは「この辺にはないんですがね、私、岡田というんですが、この先の家に行って、私の名前使ったらトイレ貸してくれるから」と近くの民家を案内するんです(笑)。

―― それはすごいですね。都会にはない、島ならではの人々の暖かさを感じます。
今後も島ならではの暖かさを守りながらも、水中ドローンなどの新しい技術の活用で、坊勢がますます発展されることを願っております。
本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

ありがとうございました


坊勢島からの夕日
「山の上からの夕焼け」
海神社
「漁師の守護神でもある海神・竜神・弁財天が祀られている海神社」
 

【ドローン先行的利活用事業(官民連携分野)】

兵庫県からの委託を受けてNIROが実施している事業。兵庫県内の次世代産業の創出を目的として、民間企業単独では実証困難な公益性の高い民間分野において、官民連携によるドローンの実証試験を行い、ドローンの利活用促進に取り組んでいる。
令和2年度は本事業として以下の4件が採択されている。

・水中ドローンを活用した人工漁礁の水産資源調査
 (JOHNAN(株))
・長時間滞空電動固定翼による大気汚染モニタリング
 (新明和工業(株)、日本気象(株)、神戸大学)
・ドローンによるリモートセンシングを活用した新しい営農指導手法の確立
 (JA全農兵庫)
・AIを活用した玉葱ベと病の感染株特定
 ((株)フィールドコム)