
第14回
須磨学園高等学校
堀川陽子教諭
北山さん、赤田さん、吉川さん
4月 2025
山陽電鉄・神戸市営地下鉄の板宿駅から、活気に溢れた商店街を通り抜け、小高い丘を登ったところに須磨学園高等学校・中学校があります。時代の要請と社会の要求に応える学力と人間性を兼ね備えた目的意識の高い生徒の育成を目指す同校は、兵庫県下の私立高校の中でもトップの競争率(2024年度前期入試)を誇る人気校です。
今回は、同校の堀川陽子教諭(世界史)、1年生(取材当時)の北山さん、赤田さん、吉川さんにお話を伺いました。同校は、NIRO他が実行委員を務める産業総合展示会「国際フロンティア産業メッセ」にも、毎年、学年行事として参加、生徒さん達と地元優良企業との交流を通じた社会学習の場として有効利用していただいています。

伝統に培われた教育理念
―― まず、貴学の歴史について教えていただけますか。
堀川教諭(以下、堀川):本校は、1922年に、校祖・西田のぶが創立した「須磨裁縫女学校」がルーツです。その後、1938年に「須磨女学校」、さらに1999年に「須磨学園高等学校」に改称するとともに共学へ移行、2004年に「須磨学園中学校」が新しく開校、そして2022年には創立100周年を迎えました。現在、中学で400人、高校で1,200人、合わせて約1,600人が在籍しています。
―― 現在の立派な学び舎になるまでに長い歴史があったのですね。このような素晴らしい歴史を背景に培った理念のようなものがあると思うのですが。

堀川教諭
(堀川):はい。「清く、正しく、たくましく」という建学精神を持っています。本校は、生徒一人ひとりの自己実現を目指しています。「なりたい自分」は、一人ひとり違いますよね。本校は、そのような一人ひとりが自らの目標を求め、見つけ、努力し、その目標を達成するための器になりたいと考えています。そして、その「なりたい自分になって、そして、社会とどのように関わっていくのか」を考えるためには、常に「社会の中の自分」を強く意識してもらいたいのです。先にご紹介した建学精神は、変動する社会の中で「清く、正しく、たくましく」自己実現をできる人を育てたいという私達の思いが詰まっているのですよ。
―― 学園として品質保証にも取り組んでおられると伺いました。製造業では品質保証は大変重要ですが、教育機関で品質保証とはどういうことでしょうか?
(堀川):学校は、多様化する生徒や保護者の個々の価値観に応えるために、どのような「教育」を提供し、「環境」を整備し、独自の学校の「在り方」を展開していくのかが問われています。このような期待に対して、私達は、常に社会のニーズを捉え、社会から必要とされる人間を育て、保護者・生徒の期待に応えるための教育環境を整備し、教育活動を通じて保護者の信頼を得ることを目指しているのです。
本校では、「学習指導の質」を「品質」と捉えて、その質の管理を行なっています。具体的には、全ての学習指導のプロセスで「目標→計画→実践→評価→反映」のサイクルを回しています。このサイクルの中の「評価」においては、生徒や保護者からのアンケートを取り、授業や指導への満足度を確認することで改善につなげています。そして、このような取り組みに対して、2004年にグローバルスタンダード(ISO9001)を取得しました。
―― なるほど。グローバルスタンダードを取得することで、その継続的改善につなげているのですね。
(堀川):はい。彼らが学校で生活する3年間で、どれだけ成長の糧や大切な思い出をつくってもらえるかが、私達が考える「品質」なのです。ですから、「教育」と「品質」という無関係に見えるものも、さほど突拍子も無いものではないと思います。
―― 確かにそうですね。
生徒の幸せな人生を願って
―― さて次は、堀川先生ご自身についてお伺いします。いつ頃から教師になりたいと思われたのですか?
(堀川):よく覚えていませんが、中学生くらいからでしたでしょうか。大学を卒業した直後は、須磨学園ではない私立高校の非常勤講師と、予備校の講師をしていました。その後、大阪の私学で常勤の教員となりました。
―― 須磨学園にいらっしゃったのはいつ頃ですか?
(堀川):2004年ですから、20年になりますね。
―― 長年、教師として様々なご経験を積み重ねてこられてきた訳ですが、「なりたい教師像」というようなものはお持ちですか?
(堀川):現実問題としては、なりたいと思っていてもなれないこともあります。ただ、自分自身が一番大事かなと思っているのは「優しいようで優しくない教師」になることです。顔は笑っているけれど怖いというか(笑)

―― その「怖い」というのは、親身になって生徒さんのことを考えたら、これはしっかりと伝えておかないといけない、という意味でしょうか?
(堀川):そうです。具体的な例として進路指導があります。生徒は「こういう風になりたい」とか「こうしたい」とかの希望をもっていても、私がその実現が難しいと判断した時、「このままだと多分うまくいかないよ」ということを、本人が納得してくれるように伝える。なかなか難しいことですけれど、これが私の考える「優しさ」です。しかし、こうして考えてみると、「なりたい教師像」ということではなく、「皆が幸せに生きていって欲しい」想いひとつで教師を続けているのかな。もちろん、うまくいくことばかりではありませんし苦労は絶えませんが、総じて教職は楽しいですね。
―― 受験のためだけに生徒は勉強している訳ではないと。
(堀川):そのとおりです。生徒が勉強をするのも、生徒それぞれの将来の選択肢を増やすためですし、学んだことは、それぞれの人生の「旅」に必要な道具になると信じています。私達もわかりやすい授業をするために、常に自分たちも学んでいますし。
―― なるほど。堀川先生たち教師も彼らとともに歩いているということですね。
では、学生さんのことを伺います。ひとことでいうと、須磨学園の生徒さんたちはどんな方たちですか?
(堀川):教師として特に自慢したいのは、みんな大変元気が良くて、どんなことでも協力してやってくれるところでしょうか。
―― それは素晴らしいですね!
大好き!須磨学園
―― では、ここからは生徒の皆さんのお話を伺いますね。勉強や趣味で好きなことを教えて下さいますか?

北山さん
(北山):レジン液というものを使って、自分の好きな形や色のアクセサリーやキーホルダーを作っています。自分で使うだけでなく、友だちにあげたり、SNSに投稿したりしています。授業は数学が好きです。
―― 数学のどういうところが好きですか?
(北山):計算すれば答えはひとつしかない、というシンプルなところが好きです。
―― 赤田さんは如何ですか?

赤田さん
(赤田):友だちとのお喋りが大好きなんです。喋ることは、次の授業のこととか、本当に他愛もないことが多いのですが。喋る人は大体決まっていますが、別のクラスの子とかにもちょっと関わってみようかなと積極的です。
―― 赤田さんは、話したい方、聞きたい方?
(赤田):僕は喋るのが好きなのですが、自分の話を聞いてもらうためには、相手の話もちゃんと聞こうと心掛けていますね。男子同士だとスポーツの話題が多いのですが、僕はスポーツのことをよく知らないので、逆に一所懸命、そういう話も聞くようにしています。
―― 吉川さんは如何ですか?

吉川さん
(吉川):僕は野球部に所属していて、ポジションはピッチャーです。中3まではサッカーをしていました。サッカーも野球も団体スポーツですが、特に日本では、野球の人気は断トツですし、プレイヤーのドラマもあり、そういうところに魅力を感じています。
―― 北山さん、赤田さんも部活動はされているのですか?
(北山):私は弓道部に所属しています。弓道部は厳しくて、今はまだ下積み期間なので、実際に弓を引くことはせず、弓道の心構えから、弓を引く姿勢などを学んでいます。これが1年近く続くんですよ。
(赤田):僕はクイズ研究会。テレビで放送されているような早押しクイズ、答えをボードに書いて掲げるボードクイズとかをするのですが、それだけでなく、自分たちでクイズを作ったりして楽しんでいます。
―― 皆さんは、須磨学園のことをどんな学校だと思っていますか?
(北山):私の姉が須磨学園に通っていました。勉強が厳しいイメージをもっていましたが、実際に学校生活を過ごしていると、学校行事もたくさんあるし、友だちもいっぱいできて。辛いこともありますが、楽しくて良い学校だなと思っています。
―― 辛いこと?
(北山):通学路の坂がキツくて(笑)
―― 確かにキツイですね(笑)
赤田さんは須磨学園、好きですか?
(赤田):大好きです。僕も兄が通っていて剣道部で活躍していたのですが、スポーツをやらない僕もあんな風になりたいなと思ったんです。兄は剣道だけでなく勉強も頑張っていたのですが、そんな兄の面倒をしっかり見てくれている須磨学園だったら、自分のことを任せても良いかなと。
―― 堀川先生の授業はどうですか?
(赤田):先生の最初の世界史の授業で「歴史が嫌いな人は?」と聞かれた時、僕は元気いっぱいに手を上げました(笑)。でも、実際の先生の授業は全然退屈じゃなかったです(笑)
―― 吉川さんは如何ですか?
(吉川):成長させてくれる学校だと思います。毎週金曜の1限目に「PM・TMの時間」があって、「目標を達成するためには何をすべきか(PM:Project Management)」、「それをいつにするのか(TM:Time Management)」というマネジメント手法を学び、実際に使っています。
(堀川):この「TBM(To Be Myself)教育」は、本校の特徴のひとつで、生徒の創造性を育むことを目的に行なっています。生徒だけでなく、私達、教職員も行なっているんですよ。
―― 具体的にはどんなテーマを掲げているのですか?
(吉川):僕は「文武両道」、つまり、勉強と部活動の両立というテーマを設定しました。このテーマを念頭に、毎週PMを組んでいます。
(赤田):僕は「志望校合格」としています。その目標の達成のために必要となる、日々の生活、学校の活用方法、先生や友人との関わりなどの要素について分解しています。
(北山):私は、ちょっと抽象的ですが、「後悔しない日々を送る」としています。今まで、あまり意味のない日々を過ごしがちだったので、趣味も勉強も部活動も全て充実させるためにはどうしたら良いかなと。
なりたい自分に!
―― 学校や皆さんのことを伺いましたが、次は、今の社会のことをどう思っているか、そして、将来、皆さんがどのように社会に関わっていきたいかを教えてくれますか。
(北山):いいなと思っているのは、親切な人が多いことです。道に迷ってしまっても道を教えてくれるとか。そして、将来、私は建築士になりたいと思っています。人に喜んでもらえる家をつくるのが目標なんです。なぜかというと、一軒家に住んでいる私の祖母が、足が悪くて階段を上り下りするのに凄く時間がかかっているのを見ているから。だから、個人個人にあった快適な暮らしを人々に提供できたら良いなと思っています。
(赤田):今は、ネット社会が浸透して、誰でもスマホを持っていますよね。ネットを使ってコミュニティが広がることは良いのですが、その一方で、弱者を集団で誹謗中傷するなど、良くないことも起こっています。こういう問題を解決するには、一人ひとりが意識を変えて優しくならないといけないし、さらに、ネットの使い方についての規制なども必要になると思っています。
(吉川):少し前のことなんですが、通学で利用している電車で、いつも英会話の本を読んでいる70歳くらいのお爺さんがいたんです。僕自身、英会話が少しできるのですが、普通、英会話を勉強するのは、学生など若い人だと思っていたので、不思議なお爺さんだなとずっと思っていました。ある日、お爺さんが、外国人旅行者から「どの電車に乗り換えたら良いのか教えて欲しい」といった質問をされたんですが、とても流暢な英語で案内されたんです。その様子を見て、とても感激するとともに人の温かさを感じました。僕が尊敬する人にスティーブン・コヴィーという作家がいるのですが、彼の「7つの習慣」という本の中に「人間は人格がいちばん大切である」ということが書かれているんです。今は、お金や権力の方向に頭が行きがちな世の中だと思いますが、どんな世の中、時代であっても、人格が最も大切なことなんだと思うし、自分自身も人格者になりたいと考えています。
―― 私達が実行委員を務め、毎年9月に神戸ポートアイランドで開催している産業総合展示会「国際フロンティア産業メッセ」(以下、メッセ)にも、毎回、高校1年生全員に参加いただいていますが、その目的を教えて下さいますか。
(堀川):学校って狭い世界です。そんな学校から外に出て、社会でキラキラしている大人たちを生徒たちに見てもらいたい。メッセは、社会や人のために役立つ研究や開発を行なっている、謂わば「カッコいい大人たちのカタログ」だと思うんですよ。実際、メッセで、そんな大人たちの姿に触れた生徒たちが、「働くってすごいな、楽しそうだな」と感じてくれています。そして、先ほどご説明しました「To Be Myself」とも関連するのですが、生徒たちが、将来どんな自分になりたいのかと考える際の材料にしてもらいたいのです。
―― ありがとうございます。メッセが、若い人たちの夢を育む場としても役立っていることを伺って大変嬉しく思います。今後ともよろしくお願いします。
さて、当インタビュー恒例の質問なのですが、最後に堀川先生の休日の過ごし方を教えて下さいますか?
(堀川):私は、バイオリン演奏が趣味で、学校でも弦楽部の顧問もしています。以前は、アマチュアオーケストラに参加するなど、団体での活動を行っていたのですが、今は個人で楽しむことが中心で、レッスンにも定期的に通っています。もちろん自分が弾くことは楽しいのですが、先生の美しい演奏を聴くのも喜びですね。
―― そのように音楽で心を豊かにすることが、日々の教育ご指導のエネルギーになっているのではないでしょうか。本日はありがとうございました。
(皆さん):ありがとうございました。
